いつの桜の頃だったか
しつこいほど花見に呼ばれたのに
行かなかったことがあった
大事な用事があったからだが
行ったとしても
あの面々との花見では
どうにも面白くはなさそうだと
思われたのもたしか
用事はスムーズに終わり
花見の場所は帰路にあったので
参加するつもりはないものの
盛り上がっているかどうか
脇から見ていこうかと思った
十人近くが集まって
けっこう盛り上がっていた
想像されたとおりに
そのうちのふたりだけが
声を張り上げてしゃべり続け
他の人たちの話など
引き出そうともしていない
面白くなさそうだと予想したのは
いつもと同じように
このふたりが我がもの顔に
自分の話ばかりすると思われたから
かわいそうに他の面々は
なかなかいい人たちなものだから
一方的に聞かされるばかり
かれらの輪に入っても行かず
声さえもかけずに
ちょっと離れて
この面々をただ見ていたばかりだが
あゝよかったよかったと
心の底から思えてきて
胸が温かくなるほど和やかになれた
話に付きあわされている面々を見ながら
その時かれらの時間といのちが
しゃべるふたりの勝手な傍若無人な話に
せっせせっせと変換されていくのを
まるで燃焼機関のしくみでも見るように
わたしは凝視したように思った
二度と戻らない時間といのちを
ふたりのこんなおしゃべりに
どんどん変換されていくままにして
かれらの未来の炎の芯が
どんどんと短くなっていくのを
おそろしいほどありありと
見させられているような気がした
たゞそれだけのことで
以後は二度と花見などしませんでした
などということはなくて
ありきたりに物見遊山し続けたが
どんな小さなことをするにも
人はごっそりと時間といのちを
注ぎ込む他ないさだめだとは
ありありと見えるようになった
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