2017年6月21日水曜日

だれでもないだれかの たゞの手として たゞの指として


  
ほんに
ナオミはしあわせじゃ
よかった、よかった

堕落しないで
ほんとうに
よかった、よかった
駿河昌樹 『ナオミに乗る』*
  

記すものといえば
だれにも読まれない文字並べばかり
だれの目にもとまらない言葉の配列ばかり
これに慣れてからは
かえって
いろいろなことが記せるようになって
ずいぶんよかったと
よく思う
ほんとうに思う

手紙やLINEやツイッター
そんなものから始まって
いわゆる文芸作品とやらまで
ひとに読ませるための書きものは
けばけばしくても
ノーメイクと見まごうナチュラル志向でも
とにかくも
巧妙な計算ずくのお化粧顔

そんなのが楽しい時もあるものの
けっきょく
どれだけ奇をてらったか
どれだけ深み軽みを演出したか
どれだけ大向こうに媚びたか
どれだけ独自っぷりたっぷりの独り舞台を演じたか
ポイントは
まぁそんなとこ
って感じの
ごく短い一場の
読み手さまのための
お座興

おお、侘しい幇間ぶりよ!

そう思いながら
次々ページをめくってはポイ
めくってはポイ
していくと
だれのどんな書きものも
やっぱり
どうでもよくなってしまう
もう
作者名も
作品名も見ないで
めくってはポイ
めくってはポイ
まことに
ご苦労様だけれど
もう
多過ぎるのだ
多過ぎる
情報も過多だが
作品過多
もう
要らないでしょ?

そして
だれひとり
ムラカミハルキに勝てないで
轟沈

こういう近未来を見越して
十年以上前に舵を切ったのは
ほんとうによかった
だれにも読まれない文字並べばかり
だれの目にもとまらない言葉の配列ばかり
これに舵を切ったおかげで
うそっぱちのミンシュシュギシャも演じないで済むし
文化や文芸の衰退を憂うブンカジン気取りにも
陥らないで済むし

よかった
よかった
だれでもないだれかとして
そんなだれでもないだれかの
たゞの手として
たゞの指として
好き勝手
いろいろなことが記せるようになって
記さないでもいられるようになって
よかった
よかった

ほんとうによかった



*駿河昌樹『ナオミに乗る』




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