2017年8月18日金曜日

けっこういろんな時あいつ ミミ



むかし
猫と馴染んでいたことがある

ミミっていう
外猫で
いちおう
となりの家のだったんだけど
台所の窓から
ストン
と入って来て以来
こっちに
なついちゃった

外猫だから
寝たり食べたりする時しか
うちにはいない
もし閉じ込めたら
柱や襖をガリガリ引搔き
あっちこっち駆けまわって
大騒動

外猫だから
こっちが長い旅に出てしまっても
大丈夫
旅から帰ると
ヤサグレた顔をして現われ
窓を開けると
ストン
と入って来て
恨みっぽい目で睨み上げるが
それも
しばらくのこと
数か月の不在など
なかったかのように
すぐ
いつもの特大座布団の上に上がって
毛づくろいをし
丸まって
尻尾の先を
鼻先に持ってきて
眠り始める

あいつ
老衰で死んでから
もう
十年にもなる
あいつが馴染んだあの家からも引っ越してしまい
引っ越して
引っ越して
引っ越して
もう
四つ目の家にいるから
さすがのあいつも
匂いを伝って探しに来ようったって
ここまでは
来れないだろう

けれど
じぶん自身のしぐさの中に
いろいろな時
あいつは居る
首の振りかたや
廊下のむこうへの
目の凝らしかた
耳を前後に動かしての
外の音への注意
そんな動きかたが
けっこう
いろんな時
あいつ

ミミ


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