むかし
猫と馴染んでいたことがある
ミミっていう
外猫で
いちおう
となりの家のだったんだけど
台所の窓から
ストン
と入って来て以来
こっちに
なついちゃった
外猫だから
寝たり食べたりする時しか
うちにはいない
もし閉じ込めたら
柱や襖をガリガリ引搔き
あっちこっち駆けまわって
大騒動
外猫だから
こっちが長い旅に出てしまっても
大丈夫
旅から帰ると
ヤサグレた顔をして現われ
窓を開けると
ストン
と入って来て
恨みっぽい目で睨み上げるが
それも
しばらくのこと
数か月の不在など
なかったかのように
すぐ
いつもの特大座布団の上に上がって
毛づくろいをし
丸まって
尻尾の先を
鼻先に持ってきて
眠り始める
あいつ
老衰で死んでから
もう
十年にもなる
あいつが馴染んだあの家からも引っ越してしまい
引っ越して
引っ越して
引っ越して
もう
四つ目の家にいるから
さすがのあいつも
匂いを伝って探しに来ようったって
ここまでは
来れないだろう
けれど
じぶん自身のしぐさの中に
いろいろな時
あいつは居る
首の振りかたや
廊下のむこうへの
目の凝らしかた
耳を前後に動かしての
外の音への注意
そんな動きかたが
けっこう
いろんな時
あいつ
ミミ
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