2017年8月9日水曜日

まさに今存在という祭が頂点にあるのを



たいへんな暑さの中を
都市の車の音はうねり上がってきて
不思議なものだ、それが
いかにも暑さに似つかわしく
まさに今
存在という祭が頂点にあるのを
つよく教えてくれている

よいものはつねに田舎や山野だと
干からびた古い感性たちは言い続けるが
都市の美しさは炎暑には増す
ここには衰弱者のための静寂などないが
心をすでに静止させ得た者には
せせらぎの小魚のきらめきのように
小鳥のさんざめきのように
都市の音はかわいらしくさえ聞こえよう

電話やネットを使って情報を取る人間たちが
都市と離れて田舎や山野は自立しているなどと
愚かなことを言うのを何度も聞いたが
そんな居酒屋文化論に時を費やすのはやめよう
もう数百年も前から
都市あっての現代に過ぎず人類に過ぎない
田園生活者がアマゾンで書籍を取り寄せたり
都市のセンター経由に注文情報を走らせて
家具や農具さえ買ったりする笑い話も
週刊誌の風刺画を見る程度の微笑みで遇しておこう

海辺に絶えることのない寄せ来る波の音のように
厖大な数の車の音や電車の音や工事の音を飲み込んで
都市の鼓動し続ける音は窓へと
窓から室内へそして耳へ精神へ魂へ霊の未来へと
いっときの途切れ目もなく寄せ続けている
これを嫌うような人々からはもう
あまりに遠くわたしは離れてしまったらしい
アスファルトとコンクリートばかりではすでにない
多様な建材と工夫とグリーンに溢れた
現代の都市のビルの群の真ん中では
なんと、たくさんの蝉たちも朝まだきから目覚め
昼日中一日じゅうをうるさく鳴き続けている
夜になればビルのわきではコオロギが鳴き
松虫や鈴虫の声さえ耳に届くことがある
都市に起こっている想像外のこんな事態に気づくには
住んで朝も昼も夜も過ごしてみる他はなかろう

たいへんな暑さの中を 
先程まで皇居の濃い緑の上にかかっていた靄は
いつのまにか流れ去ったようだが
国会議事堂は陽炎にゆらめく石碑のように
ほの赤くやわらかに見えている
どこのビルにも薄いヴェールがかかったようで
昨日までの雨が幽体となって
この都市に今しばし重なっているところ
無数の車の音はうねり上がってきて
不思議なものだ、それが
いかにも暑さに似つかわしく
まさに今
存在という祭が頂点にあるのを
つよく教えてくれている




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