2017年9月21日木曜日

『シルヴィ、から』 23

 複声レチタティーヴォの連続のみから成るカンタータ叙事詩
 [1982年作]   

 (第十五声) 4

 (承前)

では、その玉の封印の表は?そこには、どのような飾画が描かれたのだ?

それは、夕食時の絵だ。
ひとりを隔てて、わたしとシルヴィは同じテーブルについた。長いテーブルで、四人ずつ向かいあって八人がついていた。
食事が始まるまで、シルヴィの辞書のあの見返しが話題になっていた。そのテーブルについた者が、シルヴィの求めに応じて、順番にそこに記念のサインをしていった。
最後にわたしに廻って来そうになった。しかし、シルヴィがすばやくそれを止めた。
わたしの向かいにいた娘がわたしに、「あなたはサインしないの?しないでいいの?」と聞き、シルヴィに「どうしてこの人には廻さないの?」と聞いた。「いいの、彼はしないでいいの」とシルヴィは答えた。
「どうして?」と向いの娘が猶も訊ねようとするので、すでにサインをそこにしてあるから、とわたしは答えようとしたが、シルヴィはわたしに目くばせをしてそれを止めた。そして、わたしと彼女の間に座っているわたしの友人の背に隠れつつ、わたしのほうに体を傾けて、「お願い。黙っていて」と小声で言った。それに頷くと、「ありがとう」と言って微笑んで、すぐにテーブルのほうへ向き直ったので、わたしは、どうしても言ってはいけないのかと訊ねることもできなかった。

結局、どういうことだったのだ?

さて、どういうことだったか。
わたしにはいまだにわからない。とうとう聞き出さずに終わってしまった。すでにサインをしてあるということを、どうしてあの時、人に明かしてはいけなかったのか。わたしにはわからないし、わかる必要のないことかもしれない。ただ、この些細な謎が、この日の夕食の情景をわたしの心に焼き付けてしまったのは確かだシルヴィにとってはただの気まぐれだったかもしれないこの行為がわたしの中にシルヴィの像を据える時になってひとつの重要な礎となったのだった。彼女がわたしに蒔いたこの謎、この日の夕食に特別な味わいさえもたらしたであろうわたしだけのこの薬味は、そのまま効果を保ち続けて夜のダンスにまで至った。
この夜、踊りの輪の中で、わたしはシルヴィの手を握り、その掌にわたしの掌を打ちつけもした。彼女の手を強く握りしめるのはあまりに露骨すぎると思われて避けたが、相手と掌を打ちあわせるところのある踊りの時には、親しげに、特に強く掌を打ちつけた。それを感じ取って、悪戯っぽくわたしの目を見上げながら、彼女もわたしの掌に自らの掌を強く打ちつけた。互いに手が軽く痺れるようで、わたしたちの両の掌からは激しい音が弾けた。わたしは幸福だった。これが幸福ということだと自分に言い聞かせた。わたしたちの間には、次第に盛り上がっていくなにものかがあった。まだ明日がある。明後日がある。まだ何日もある。もっと幸福になれるだろう。もっと親しくなれるだろう。時間が時間以上のものを生むだろう…

 (第十五声 終わり)




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