2017年9月13日水曜日

『シルヴィ、から』 13

    複声レチタティーヴォの連続のみから成るカンタータ叙事詩
 [1982年作]   

 (第八声 アリア)  
 
  
 ……まさか、誰かが窓を叩いているわけではあるまい。
嵐のしわざに決まっている。
窓枠を大きく揺さぶって、持って行こうとでもするようだな。
なんという音だ。
その上、窓がこちらへ伝える振動のこの、なんという重み。
これは嵐の重みだ。
嵐の息吹、嵐の血流の、意外にも規則正しい脈の運びが空を下り、この荒涼としたところに、寂しさを求めるためのように一軒だけある宿屋の、そのまた二階の一部屋の、くたびれ果てたというよりは枯れ果てた、窓の木枠と歪んだガラスに、独特の大きな震えを行き渡らせる。
そして、窓は、おそらく、この嵐の生命の躍動の印である震えに乗り移られるに耐えられず、わたしのほうへ、部屋の中へと大きくも細やかな重荷を、その都度投げ移す。
わたしは快くおまえのこの重みを受けよう、窓よ。これは、わたしには重荷とはいえないのでもあるから。
おまえが苦役を振るい落とすたびに、天の息吹と血のめぐりが直にわたしの血管に流れ込むかのようだ。

雲が流れていく。
嵐はいよいよ盛んに声を張る。
風たちが自らを、ところかまわず投げつける。
雨滴たちと大地が激しくぶつかって抱きあう。
彼らを養っているのと同じ力が、今、わたしにも流れ込む。
目覚めたわたしは、今、ようやく幾重にも目を覚ます。
稲妻は来ないか。
洪水は遠いのか。
海はどこにいるのか。

 シルヴィはどこだ。
あの雲の上か。
美しい雲だな。
この嵐の黒い空間の中にあって、ひときわ白いあの雲はなんの印だ。
なんの兆し。
嵐は終わってしまうのか。
大地から立ち上った諸々の小生意気な者たちを、激しく地面に打ち据えて省察させる雨たちも、もう息を止めてしまうのか。
この地から果てまでをも一様に領していた雨の音も、やがては次第に足踏みを解いていくのか。

シルヴィはどこだ。
わたしはどうすればいいのか。
雲たちの流れゆく大空の河に沿って、隠れ去った陽の向こうへ、それともあの懐かしい故郷、じめじめした陰気な青い月の裏側へでも行こうか。
河の端、時を孕む恒久の卵のような、拳ほどの石ばかりが転がる河原の中に、どうにか大きな丸い石をでも見つけて座ろうか。
流れの声を聞きながら、朝の来るのを思おうか。
静かな露に濡れでもしつつ。




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