2017年9月13日水曜日

『シルヴィ、から』 14

 複声レチタティーヴォの連続のみから成るカンタータ叙事詩
 [1982年作]   

 (第九声)  

 
 ……なにを思っていたのだろう。
確か一度は目覚めたはずだが。
そして嵐が窓を叩くのを聞いたはずだったが。

ーーなるほど、いかにも外は嵐だ。
とすると、ふたたび夢に陥ったというわけだな。
嵐の去ってしまうのを、まるで、ひどく惜しんででもいるようだった。
もっとも、今、宿を包んでいるこの嵐は当分去りそうにもないが。

 去りそうにもないが、ーーわたしにとってはむしろ、これこそ悔やまれる。
去りそうにもないが、行かねばなるまい。
思うに、今は、三時頃か。
まだ、空が青ざめた冷たい頬を見せるには間がある頃。
空の陰鬱な頬の反映を受けて、朝一番の旅人たちが霧を吸ったみずみずしい互いの頬の色を知るにも間がある頃。

嵐は今、盛りのようでもある。
この豪雨の中を、わたしは道の泥濘に足を取られながら歩んでいくことになるだろう。地上一本だけ続く道を行くのだろう。

夜の明けないのがまだしもだ。
朝まだき、うっすらと地上のものがかたちを取り始める頃に、いつとは知れぬ昔の思い出のように続く、こうした雨の降りようの中へ宿から出ていくというのは、ーーああ、それは支えようのない寂しさを甦らせるからな。

この先、まだどれほど道中を続けねばならぬか知れないのだ。
そんな寂しさは堪らない。
雨の朝のうらぶれた光がわたしの背に寄り掛かる前に、そして、また、しっとりとわたしに頬ずりなどする前に、わたしは行こう。
はやく雨の中に出て、わたしの心を取り纏めて歩もう。




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