2017年9月17日日曜日

『シルヴィ、から』 21

 複声レチタティーヴォの連続のみから成るカンタータ叙事詩
 [1982年作]   

 (第十五声) 2
  

  (承前)

昼食が終わって、わたしたちは、昨日と同じ場所、女子の宿舎の前の階段のあたりに落ち着いたのだった。
この日の午後は何の予定も組まれておらず、夕食までは各自自由に過ごしてよいことになっていた。

シルヴィは編み物を始めた。
絵を描くことの好きだったわたしは、そういう彼女を素描し始めた。
夕食まで、陽が傾き、風が夜の訪れをさびしく吹き知らせるまで、そして、散った仲間たちがこの場所へ帰って来て、昼の出来事を賑やかに語り始めるまで、わたしたちはずっとそこにいた。

わたしは時々場所を替え、さまざまな向きからシルヴィを描こうとした。
シルヴィは時おり立ちあがったり、座り方を変えてみたりしたが、はじめに腰を下した場所から大きく離れることはしなかった。
編む手をたえず動かす他は、ほとんど不動だった。ちょうど、そのように不動に、わたしの心の中に無類の位置を占めつつあったように。

彼女の座っているのは、昨日と同じで、階段の両脇の低い壁の端にある柱の上、左右どこまでも伸びて行こうとする階段を諫めて、その幅を定める石の角柱の上だった。
その角柱から宿舎のほうへ向かう壁の上、階段の最上段と同じ高さの壁の上、ごく数段とはいえ、階段を上がることによって得られる新しい土地とも、本当の土地より幾分高い平らな広がりともいえる、宿舎の土台である造られたテラスの上で、彼女は時おり脚を伸ばして、かわり映えのしない姿勢が長い時間の間に養う倦怠をあやしてみたりしていたが、そうでない時には、柱の下に脚を投げ出し、編み物に上半身を軽く被せるようにしていた。
今日、シルヴィは、頭の真ん中あたりでふたつに分けた金泥の髪束を、それぞれ耳が見え隠れする程度に側頭をゆったりまわり道させてから、後ろで急に掻きあげるようにして、その流れを留めていた。
そのため、昨日のように髪が幾分しどけなく地に伸びようとすることはなかったが、そのかわり、束ね損ねた幾本かずつが蜥蜴の金の舌のようにシルヴィの首筋を舐めたり、喉元までそっと滑ろうとしたり、あるいは無造作に、金の硬い細糸のように頬にまっすぐに張りついたりするのが目に入って、見る者の薄い膜のような心の襞を抓んでは様々に惹き、惹いては離し、そのたびに残す爪痕のかすかな痛みや滲み出るように散っていく痺れのために、わたしの若い官能は、けっして果てはしないまでも、柔らかに、静かに悶えさせられ続けるのだった。

(続く)



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