2017年9月17日日曜日

秋風吹不盡

  
長安一片月
萬戸擣衣聲
秋風吹不盡
總是玉關情…*

これを思い出すにふさわしい夜々が
また今年も訪れてきている
李白が歌に込めたのは
もっと秋も深まってからの季節だろうか

この秋は
秋風吹不盡
秋風吹いて尽きず
と読もうか
秋風吹いて尽きることなし
と読もうか
それとも
中国語の音を
誰かに
聴かせてもらおうか

秋は時間を超えて
あらゆる過去未来の万人の思いに
わたしを
わたしでないが
わたしあってもよかった人たちすべてを
あたり前のように
繋ぎあわせてくれる
李白のこの一編は
永遠に人の口に載せられるだろう
秋があり続けるかぎり
人が秋に導かれて古今東西へと心を飛ばすかぎり

平安後期から鎌倉前期を生きた
飛鳥井雅経は
み吉野の山の秋風さ夜ふけてふるさと寒く衣うつなり
と遠く李白に応えたが
吉野で実際に秋風を身に受けたわたしには
この共鳴ぶりの味わいも
ふかく身に染みて懐かしい

あゝ 吉野のあの不思議な秋寂を
また訪ねにいこうか
京都から奈良へ
さらに明日香へ
その先の吉野へ
長々と列車に揺られながら




*子夜呉歌 李白
長安一片月
萬戸擣衣聲
秋風吹不盡
總是玉關情
何日平胡虜
良人罷遠征



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