2018年3月31日土曜日

経験や学習の必要性の廃棄

 

はじめは慣れなかったが、
うちのマンションでは、たとえばトイレのドアの裏に
うっすらと日時が浮き上がる
年月日、そして時間
それらが数字で浮き上がる

冷蔵庫の表面や廊下の壁などにも
おなじものが浮き上がる

望めば、現在の戸外の天候や
外と中の温度差まで浮き上がってくる
そればかりか、一週間や一か月のカレンダーも
思いに応じて浮き上がってくる

家の中にいて、いろいろなことをしていても
今日の日付を確認したくなったり
週や月の中での時間的現在位置を知りたくなったりする
そういう時に、じゃまにならないところに
見やすく、最低限の情報が浮き上がってくる

この表示をコントロールするのに慣れてからは
夕暮れの室内で、明かりを灯さずに
紫やピンクやオレンジやイエローなど、色をどんどん変えながら
空中に日時表示を浮き上がらせるのを楽しんだり
もう就寝した後の深夜、ふと目が覚めた時など
気まぐれに、闇の中に、今の戸外の温度や風速などを
浮き上がらせたりするようになった

こうした設備のおかげで、時計もカレンダーも
スケジュール手帳さえも、家の中では要らなくなってしまったが
ひとつ問題なのは、古いやり方に馴染んできた脳は
時々、それら古い仕様の物品を見つめたり
手に取ってみたく思う時があることだ

外出する際に、手帳やスマホさえ持ち出さないことも
自然に多くなっていった
それらは、外では必要なのだが
家の中ですっかり不要になってしまった感触のまま外出するので
携帯するのを、意識の深いところで忘れてしまっている

もうしばらくすれば、戸外でも、
本当に、手帳やスマホは不要になることだろう
手の甲や手のひら上にスケジュールを浮き上がらせる技術は
もう、あたり前のものになっているし
ノートの白紙やバッグの表面に浮き上がらせることもできるし
それどころか、目の前の空中に浮き上がらせる技術も
すでに、ほぼ完成段階にある

もちろん、わたしたちが進行中のプロジェクトは
そのようなレベルをさらに超えている
誰であれ、その人の思いの中に、
必要な情報が、つねに、瞬時に明瞭に浮かび上がるテクノロジーであり
これは、記憶の再生の鮮明化などというレベルを超えたもので
学習も経験もしていない情報を、望みのまま、
見やすく、わかりやすく、利用しやすいかたちで現前させるものだ

これは、たとえば、誰も行ったことのない冥王星の
極点の一部区域の深度2000mの土壌分析や
その地域の立体的な視覚映像などでも、もし望めば、誰であれ、
意識の中に一瞬に立ち上げられるということを意味する
土壌分析表を意識内にそのように見たところで
ふつうなら、それを利用する際には学識が必要とされるが、
いかなる種類の学識も経験も、望めば、意識内にすぐに得られるので
そこの土壌からどのような金属が抽出でき、それを使って
どのような道具がどのように作れるかなども、すぐにわかる

わたしたちが突破しようとしているのは、いわば、
経験や学習の必要性の廃棄ということになるのかもしれない
なにかをするために、従来の人類は
しばしば、多大の時間と手間をかけて、準備段階を
通過しなければならなかったが
そうした地上体験の基本構造を変貌させるプロジェクトを
わたしたちは進行させているところだ



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