2018年3月30日金曜日

彼の視野には入らなかった

 

本棚の奥にあったリーヴル・ド・ポッシュ版のランボー詩集は

…お?
誰の校訂版かな?
あゝ…、ピエール・ブリュネルのね*

誰のでもいい

ぱらぱら
めくる

最初のほうに書簡からの抜粋を出しているとこが
ちょっと
変った編集だね

ふつう
後のほうに書簡って
載っけてたりする
あまり見なかったりするわけ

ぱらぱら
ぱらぱら

…お?

ロンドンからのヴェルレーヌ宛、1873年
有名な手紙

「戻って来て!戻ってきて!戻って来て!
「いい子にするって約束するからさ**
だって

熱愛の恋文みたい

年上の男ヴェルレーヌを
ほんと
愛してたんだね
熱愛だね
こりゃ

ほんと

「戻って来て!勇気出してさ!なにも失われたわけじゃないさ!***

Rien nest perdu.****

なにも失われたわけじゃないさ!

ぼくはガルニエ版のちょっと厚手のランボー詩集を携えて
20代はじめ
東京を歩きまわっていた
松室三郎さんのマラルメ講義を聴いていた頃だ

フランス語で本気で自力で読んだのはランボーが先
ボードレールよりも
マラルメよりも
アポリネールよりも
プレヴェールよりも

ガルニエ版はもうぼろぼろだけど
まだ本棚にある

『いちばん高い塔の歌』の第四連のorietur
なかなか註が付いていなくて
いろいろな版を買い続けたものだった

このリーヴル・ド・ポッシュ版
3.05ユーロだ
安いから買っておいたんだったかな
薄いし
ランボーとかは
薄いのがいちばん
ぶ厚い研究書みたいになっちゃったランボーの本って
どうかと思う

いま
ぱらぱらすると
ランボー
やっぱり若かったんだな
と思う
ことばが若い一文の長さが若い改行が若い持ってくるイメージが若

でも
「かつては、ぼくの生活、宴だったんだぜ。記憶に間違いがなければね。
「こころというこころはすべて開き
「酒酒酒が流れ出てたもんだ。*****
この冒頭。
『地獄の季節』の。
よく書いたよな
20にもならないやつが

出口裕弘さんがロートレアモンの話をするのを聞いた時
出口さんはランボーやロートレアモン
大好きで
再三再四熟読翫味し続けたが
友だちの澁澤龍彦にはぜんぜんピンとこなかったらしい
って聞いた
あれ、どこが面白いの?
っていうのが
澁澤龍彦のランボー評だったらしい

面白いなァ
って
思ったね

ランボーに
生涯
ピンと来なかった澁澤龍彦
って

あの
澁澤龍彦が

出口さんは1945年旧制浦和高等学校入学
澁澤龍彦も1945年旧制浦和高等学校入学
だから
同窓生で同学年
だから
友だちだったんだね
ほんとに

ふたりとも理系コースだった

出口さんは東日暮里に生まれ
澁澤龍彦は滝野川に育った******
あのあたり
よく知っていて
共有する感覚もあったわけだ

澁澤龍彦は
澁澤さん
とは呼べない
いちど
なにかの個展で
近くに居あわせて
これが澁澤龍彦
と見つめたことがあるだけ

話はしなかった
握手もしなかった
彼の視野には入らなかった

だから
澁澤龍彦
と呼ぶ




*Arthur Rimbaud : Une saison en enfer, Illuminations et autres textes(1873-1875), Le livre de poche classique, éd.Pierre Brunel, 1998.
**ibid.,p.35.
*** ibid.,p.35.
**** ibid.,p.35.
***** ibid.,p.47.
******澁澤龍彦『私の戦後追想』(河出文庫、2012)




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