ことばがなにかの役にほんとうに立つという意見に
あまり
これらのことばは
賛同しないのではないかと思うが
シメラリスという村の
はずれの菫の野から
それはそれは美しいことばが
風に吹き乱れる長いむらさきの髪の毛とともに
こちらを目指して
ゆっくりと歩んでくるという噂を
もう
三千年ほど前だろうか
耳にしたので
ことばとは縁を切らないでいる
けれどもそれが元で
あんなに仲の良かった恋人バトコとのあいだには
齟齬が生じてしまった
バトコは短い髪で
髪の色も黄金だから
むらさきの長い髪のことばとは
相容れないのだろうと
それとなく理由を思ってきていたが
このあいだ見た夢では
むらさきと黄金はすばらしく合い
風景をいっそう魅力的なものにしていたので
バトコには
ほんとうは
べつの理由があるのかもしれない
そういえば
シメラリスの村は
ことばがこちらへ歩み出した後
ふぅわりと宙に舞い上がって
大きな薄い紙のように
軽々と浮き
こちらではないどこかへ
進んでいっていると聞いている
わたしは
ことばよりもむしろ
シメラリスのほうに興味があるので
その行く先をたずねて
探し探しして行きたいと思う
バトコはどうするのか
わからないが
ことばへと向かうのではないわたしだから
後からでも
ついてくるかもしれない
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