2019年1月23日水曜日

シメラリスのほうへ



ことばがなにかの役にほんとうに立つという意見に
あまり
これらのことばは
賛同しないのではないかと思うが
シメラリスという村の
はずれの菫の野から
それはそれは美しいことばが
風に吹き乱れる長いむらさきの髪の毛とともに
こちらを目指して
ゆっくりと歩んでくるという噂を
もう
三千年ほど前だろうか
耳にしたので
ことばとは縁を切らないでいる

けれどもそれが元で
あんなに仲の良かった恋人バトコとのあいだには
齟齬が生じてしまった
バトコは短い髪で
髪の色も黄金だから
むらさきの長い髪のことばとは
相容れないのだろうと
それとなく理由を思ってきていたが
このあいだ見た夢では
むらさきと黄金はすばらしく合い
風景をいっそう魅力的なものにしていたので
バトコには
ほんとうは
べつの理由があるのかもしれない

そういえば
シメラリスの村は
ことばがこちらへ歩み出した後
ふぅわりと宙に舞い上がって
大きな薄い紙のように
軽々と浮き
こちらではないどこかへ
進んでいっていると聞いている
わたしは
ことばよりもむしろ
シメラリスのほうに興味があるので
その行く先をたずねて
探し探しして行きたいと思う

バトコはどうするのか
わからないが
ことばへと向かうのではないわたしだから
後からでも
ついてくるかもしれない



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