2019年4月2日火曜日

なんだかなぁ……


新元号発表騒ぎ
というか
新元号祭り
というか
なんであれ見逃さずにお祭り騒ぎのネタにしたがる国で
これって
人がいいのか
バカだっていうことなのか
乗りがいいと見なすべきなのか
そこまでして商売するかァっていうことなのか
わからない国でございます
ほんと

新元号を見ると
個人的にはすっごい既視感
母方の兄弟姉妹の名前をまとめた二文字となっていた

江戸上杉家のひとつの家系にして
大正時代から昭和時代の実業家であった祖父上杉秀松の
長女上杉令子
長男上杉良雄
二男上杉謙三
二女上杉敏子
三女上杉和子
これが母方の兄弟姉妹だったが
なんと
長女令子の令と
三女和子の和
これをまとめて令和とし
日本国がわが母方に名誉ある挨拶をしてくれたものと見えた
幼時からのわたくしの意識のなかに
令と和は
母方の人々をまとめた表象として定着していたので
なんだかこれからの数十年は
上杉秀松の家をつねにわたくしに想起させ続ける歳月となりそう
ゲルマントのほうへ
ではないが
上杉家のほうへ
意識のむかい続ける一章が
やはり書き加えられねばならないのか
とせつせつと思わされる
のである

こういう予期せぬ意想外の現象を
なんだかなぁ……
と呼ぶべきなのであろう
ほんと
なんだかなぁ……
なので
ある
日本全国の数十年を巻き込んでいくであろうことになってしまって
なんだかなぁ……
なん
なん
である

ちなみに
上杉秀松は戦後日本のナカヤ式塗装機の普及者として有名であった
あらゆる工業製品には塗装が必要だが
急速な塗装を可能にしたガン式塗装機の発明者に出資して
高度経済成長期の日本の工業生産に革命をもたらしたらしい
フランスのビッグボールペンを日本に導入したのも彼である
そういう事情から子供の時はビッグボールペンばかり使わされた
当時はインクが日本の気候にあわずすぐに書けなくなり
おじいちゃんからもらうペンはぜんぜん書けないと不平不満ばかり
カスれるし芯のなかで固まっているしボールは回らなくなるし
けっこう使用実験におのずと関与させられていた幼少期であった

秀松は明治期に上杉寅松の息子として生まれ
上杉寅松は神田美倉橋の大きな和菓子屋桔梗屋の若旦那であった
妻は下谷の大きな筆屋池田屋からトヨを貰った
商売一切を番頭まかせにしていた寅松は
長唄端唄小唄の類や俳句や絵画や骨董いじりなどに没入し
店を弟に乗っ取られて没落することになったらしい
もともとの心身虚弱に気落ちが響いたか三十代で亡くなり
ふつうの葬儀も出せない状態のなか息子の秀松は
戸板に乗せて父の遺骸を火葬場に運んでいかねばならなかった
ラスティニャックならぬ秀松のリベンジの決意はここに固められた
徹底した人脈づくりと天才的な投資眼を武器に
商魂逞しき遊び人上杉秀松がここに立ち上がっていく
母トヨとの貧乏暮らしから実業界に飛び込んだ彼は
中年期には田端文士村に広壮な邸宅を構えるまでになり
家の後ろには人間国宝板谷波山を隣人として持ち
トヨの三味線仲間には町内の芥川龍之介夫人が加わり
芥川龍之介自殺の際にももちろん葬式手伝いに出て行った
そういえば田山花袋さんもあそこに住んでいて…といった田端生活

こんな秀松の儲けた子らが
令子から始まって和子に到るわけだが
わたくしが令と和を見れば彼らをまとめて想起するがごとく
秀松ももし令と和を見せられれば
おのずとじぶんの子らをまとめて想起したはずで
さらにはじぶんの再興した上杉家のひとつの表象を示されたごとく
ずいぶん感慨深く想い見たのではないか

ということで
なんだかなぁ……
なのである

ほんと
なんだかなぁ……
なので
ある

ちなみに
上杉秀松ほか上杉家の墓は蔵前の榧寺にある
墓石には寛政の文字の刻まれている古い石がまだ使われているが
それ以前の古い石がかつては幾つか立っていたのを
関東大震災と東京大空襲を期に整理せざるを得なくなり
さらに墓所の整理縮小によって失われてしまったのは残念なところ
榧寺はこのように江戸時代からの上杉家の菩提寺で
創建は一五七五年以降であるらしい
葛飾北斎の「榧寺の高灯篭」という絵には江戸時代の寺の姿が残され
石川淳は「至福千年」に榧寺を描き込んでいる
寺の墓所には江戸時代の檀家だった狂歌師宿屋飯盛こと
石川雅望の墓が今もあって
墓参りの際にわたくしはここでもいつも手を合わせ
国学者としての
文章家としての
とりわけ狂歌師としての精神に
おさおさ怠りなきように霊力を注入していただこうとしている

という
わけ

この狂詩も
宿屋飯盛先生に
いつもとおなじくご覧頂こうと
手っ取り早く書き上げてみました次第に御座りまず

腹の底の底まで
だんじて明治以降のやり方に与せぬ
江戸文化の狂歌魂に染まったわたくしの
ちょいとした
筆汚しで御座いましたナ







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