2019年5月3日金曜日

ぼくはぐんぐんと急いで下りていく

 

メキシコだったと思う
レンガのような石を積み重ねて
パオのような丸っこい建物や
大小の壁などが
迷路をなすように
あちこちに配されている
広い公園だった

仕事も終わった夕ぐれとか
ちょっと時間の空いたときとか
町のひとびとはそこに来て
ボーッとたたずんでいたり
ビールを飲んでいたり
タバコを吸っていたりする

知りあいや友人に出会うことも多く
その夕がたも
何人か
知りあいに出くわした

段々のながい坂になっているところを
なんでだか
ぼくはぐんぐんと急いで下りていく
下りていった先には広いテラスがあって
崖から下界を見下ろせるようになっている
たくさんの町々や
川や海や
遠方には山脈なども見え
ダ・ヴィンチの絵の背景みたいだったり
ヤン・ファン・エイクの絵みたいだったりして
なかなか眺望がいいので
人気のスポットだ

知りあいたちが
やあ!とか
ごきげんよう!とか
挨拶してくれるが
挨拶を返すのもそこそこに
ぼくはぐんぐんと急いで下りていく
ぼくの後からついてくる人たちもいるが
追いつかれないような速さで
ぐんぐんと急いで下りていく

うしろで彼らが
ほら、彼はあんなふうに速いんだよ
とてもじゃないが追いつけないね
それにしても速いね
などと
言っているのが聞こえてくる
ビールをちびちびやりながらでも
タバコを吹かしながらでも
十分もすれば
どうせテラスには行き着くのだから
急ぐ必要なんかないのを
だれもが知っている

それでも
ぼくはぐんぐんと急いで下りていく
彼らがぼくのこと速いというのを聞きながら
そういうふうに
ぼくを受け入れてくれている彼らの存在が
どんなにありがたいか
ぼくには身にしみてわかってくる

うしろで彼らが
ほら、彼はあんなふうに速いんだよ
とてもじゃないが追いつけないね
それにしても速いね
などと
言っているのを聞いて
こんなちょっとの速さを獲得しようとしながら
なにをしようというつもりかな、ぼくは?
と内省を募らせるが
ぼくはぐんぐんと急いで下りていく



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