メキシコだったと思う
レンガのような石を積み重ねて
パオのような丸っこい建物や
大小の壁などが
迷路をなすように
あちこちに配されている
広い公園だった
仕事も終わった夕ぐれとか
ちょっと時間の空いたときとか
町のひとびとはそこに来て
ボーッとたたずんでいたり
ビールを飲んでいたり
タバコを吸っていたりする
知りあいや友人に出会うことも多く
その夕がたも
何人か
知りあいに出くわした
段々のながい坂になっているところを
なんでだか
ぼくはぐんぐんと急いで下りていく
下りていった先には広いテラスがあって
崖から下界を見下ろせるようになっている
たくさんの町々や
川や海や
遠方には山脈なども見え
ダ・ヴィンチの絵の背景みたいだったり
ヤン・ファン・エイクの絵みたいだったりして
なかなか眺望がいいので
人気のスポットだ
知りあいたちが
やあ!とか
ごきげんよう!とか
挨拶してくれるが
挨拶を返すのもそこそこに
ぼくはぐんぐんと急いで下りていく
ぼくの後からついてくる人たちもいるが
追いつかれないような速さで
ぐんぐんと急いで下りていく
うしろで彼らが
ほら、彼はあんなふうに速いんだよ
とてもじゃないが追いつけないね
それにしても速いね
などと
言っているのが聞こえてくる
ビールをちびちびやりながらでも
タバコを吹かしながらでも
十分もすれば
どうせテラスには行き着くのだから
急ぐ必要なんかないのを
だれもが知っている
それでも
ぼくはぐんぐんと急いで下りていく
彼らがぼくのこと速いというのを聞きながら
そういうふうに
ぼくを受け入れてくれている彼らの存在が
どんなにありがたいか
ぼくには身にしみてわかってくる
うしろで彼らが
ほら、彼はあんなふうに速いんだよ
とてもじゃないが追いつけないね
それにしても速いね
などと
言っているのを聞いて
こんなちょっとの速さを獲得しようとしながら
なにをしようというつもりかな、ぼくは?
と内省を募らせるが
ぼくはぐんぐんと急いで下りていく
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