2019年6月13日木曜日

わたしはおまえをすっかり包み込んで

 

ほんの短いあいだだったが
わたしはその時わたしの神だった

わたしはわたしをすっかり包み込んでいて
たくさんの好奇心と希望とでいっぱいの小さなわたしが
四方八方を忙しく見やって
あれこれに気を配ったり
手を出したりして工夫し
さまざまなことを実現させようとしたものの
なにもやり遂げられず
とうとう
たくさんの好奇心と希望の重さに押し潰されていって
疲れ切って
すっかり心の風船を萎ませて
公園の壁にもたれてずるずると崩れ落ちてしまった
小さな子どものようになっていくまでを
見続けていた

わたしの見続けている小さなわたしは
すっかり憔悴して
手足もどんどんと細くなっていくばかりで
もうからだのどこにも力は入らず
顎も半びらきで魚の干物のようになっていく
そんなわたしを
わたしはすっかり包み込んでいて
はじめにそうだったように
はじめからそうだったように
ずっとそうだったように
すっかり包み込んで見続けていた

ほんの短いあいだだったが
それでも
それは
人間たちが人生と呼ぶ程度には長いあいだで
その期間が
まもなく終わりを迎えようとする今も
わたしよ
わたしはおまえをすっかり包み込んで
見続けている

ほんの短いあいだだったが
わたしよ
わたしはおまえを包み込み続け
見続けてきた
たくさんの好奇心と希望とでいっぱいだったおまえを
わたしは見続けてきた
だれにも見られることなく
知られることなく
いつも闇のなかで手さぐりするばかりだった
いつも裏通りの細道を音もなく行きつ戻りつするばかりだった
とだけ
思っているおまえを
わたしは見続けてきた
ひとけのない浜でひとりで砂の城を作っている時も
だれもいない庭で土いじりをし草花を育てている時も
わたしは見続けていた

ほんの短いあいだだったが
わたしが
おまえの神だった

今なら明かせるが
わたしが神であるようにするために
わたしよ
おまえは在った

ほかの存在理由は
おまえには
一切なかった

だから
おまえはこれまでのようなおまえでよかったし
すべてはあのようでよかった
すべてはこのようでよかった




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