映画館で映画を見ていたら
なんどか
汗や垢が凝ったような臭いに包まれ
その上
むしょうに吐き気を覚え
トイレに行こうかと思ったが
吐き気のほうはなんとか収まったので
ちょっと不安に思いながらも
そのまま見続けた
匂いも
吐き気も
三度ほど襲ってきたように思う
じぶんの衣類やズボンが臭うのか
とも思ったが
シャツに鼻を寄せても
べつに臭わないので
ひょっとしたら
暑かった夏のあとで
映画館の椅子から人びとの汗が臭うのか
とも考えた
汗や垢の凝った臭い…
とは思ったものの
もう少し考えてみると
死体の臭いに近いともいえる
子どもの頃
近所の葬式で
なんどか死体のものらしい
それとない腐臭を嗅いだことがある
ドライアイスなど豊富にない頃で
夏の葬儀など
棺桶の近くに来ると
なんとなく臭う
臭うような気がしたものだった
あの臭いに
そういえばけっこう近い
映画館に座っているというのに
あの臭いみたいなものに
三度ほどは
圧倒的な臭さで包まれたのだった
けっきょく
なんの臭いだったか
わからなかったが
きっと
死霊のようなものが
通り過ぎていったのだろう
と思うことにした
まわりの誰かさんの放屁の臭いとか
口臭だとか
胃の臭いだとか
そういうのとは違う
独特のタンパク質の分解過程の臭いで
そんなものがまるで存在しない場所でのことだったのだから
目に見えない死霊のようなものだろう
たぶん
と思うことにした
そう思うことにすると
臭いが死霊のせいだろうがそうでなかろうが
まったくべつの空間が
映画館に開き
映画館から外に出たあとにも開く
そっちのほうを選ぶのが楽しいので
そう思うことにした
わけ
そう思うことにいつもする
わけ
そう思うことにすると
臭いが死霊のせいだろうがそうでなかろうが
まったくべつの空間が
映画館に開き
映画館から外に出たあとにも開く
そっちのほうを選ぶのが楽しいので
そう思うことにした
わけ
そう思うことにいつもする
わけ
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