2019年11月23日土曜日

声も立てずに

 

湿り気をもたらしてくれるので
冬の雨はわるくない

日も暮れて
暗い雨のなかを歩いていく

降る雨の粒を
街灯がひとつひとつ照らし
地面には
あかるみがポッと円盤のように落ちて
これからなにか
始まるかのようだ
明暗が
あそこにも
ここにも
小さな永遠のドラマを準備していて
草はらも
低い山も
家並みも
大きなビルも
低いビルも
冬の雨にふさわしく作られた背景のように
うつくしい控えめさで
静まっている

暗い雨のなかを歩いていく

思い出される
なんと
たくさんの事ども
起こったこと
起こらなかったこと
どの瞬間も
あゝ すばらしかったではないかと
たったひとりの聞き手
わたしに
声も立てずに
わたしはささやく




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