わたくしの住んでいるところでは
夕方の5時になると
あれは放送塔とでもいうのか
広報塔とでもいうのか
区役所から
大音響で
夕焼け小焼け*の歌が流されるのである
ゆうやけこやけで
ひがくれて
やまのおてらの かねがなる
と
山もなければ
山のお寺もないところに
せつなく
さびしく
1919年作の
あの哀調の童謡が
大音響で流されるのである
おててつないで
みなかえろ
からすといっしょに
かえりましょ
とやられるのである
いっぺんに脱力してしまうのである
降参せよと諭されてしまうのである
なにをやってもどうにもならないと知らされるようなのである
こころや精神の内部から蕩け落ちていくのである
とにかく日暮れなのである
今日は終わったのである
もうおうちに帰りなさいなのである
明日は明日の風が吹くなのである
どことなく「勅命が発せられたのである」**な感じなのである
「既に天皇陛下の御命令が發せられたのである」な感じで
「今からでも決して遲くはないから
直ちに抵抗をやめて軍旗の下に復歸する樣にせよ。
そうしたら今迄の罪も許されるのである。
お前達の父兄は勿論のこと、国民全体もそれを心から祈ってゐるの である。
速かに現在の位置を棄てゝ歸って來い」な感じなのである
直ちに抵抗をやめて軍旗の下に復歸する樣にせよ。
そうしたら今迄の罪も許されるのである。
お前達の父兄は勿論のこと、国民全体もそれを心から祈ってゐるの
速かに現在の位置を棄てゝ歸って來い」な感じなのである
歌われるわけではなく
メロディーだけ流されるのは
はたして
まだしも
さいわいなのか
それとも
いっそうもどかしく
やるせないのか
こころは歌ってしまうのである
おててつないで
みな かえろ
からすといっしょに
かえりましょ
と歌ってしまうのである
こどもがかえった
あとからは
まあるい
おおきなおつきさま
ことりが
ゆめをみるころは
そらには きらきら
きんのほし
と続けてしまうのである
あゝ、ビル・エヴァンスにも
How my heart sings***
って
あったな
と思い出してしまうのである
せつなく
さびしく
やるせなく
いつも
どこでも
いつまでも
いつまでも
かなしい
かなしい
にっぽんなのである
が
ビル・エヴァンスを思い出したので
ちょっと
救わ
れ
た
か
な
れ
た
か
な
なのである
**2・26事件戒厳司令部「兵に告ぐ」
***Bill Evans Trio - Five (theme) / How My Heart Sings - 19 Mar 65
https://ja.wikisource.org/
0 件のコメント:
コメントを投稿