2019年11月5日火曜日

冬の日



冬の
本格的な寒さが近づいてくると
むかし
暖かい部屋にいた冬の日が
思い出されてくる

子どもの頃
少年の頃
まだ
家の平和が失われていなくて
学校も終わって
冬休みに入った日
親は出かけて
ひとりで静かに炬燵に入って
おきまりの
蜜柑だの
お茶だの
近くに置いて
飽きもせず
本を読み続けている

その先に
どんなに辛い波乱が待ち受けているか
まだ思いもせず
いつまでも
こんな閑雅な読書を続けていけるかのような
じぶんの受けた生に
ずいぶん
根拠のない信頼などよせて
ときどきは
剥いた蜜柑の皮から
汁をページに飛ばしたりしながら
ひょっとして
風など強まったりしていないかと
窓の外に目をやったりもして

まるで
つかのまの人生の避難所の窓から
やがて始まる
生の暴風雨のきざしを
感じとろうとでも
するように




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