一生の楽しきころのソーダ水
富安風生
もう
うちに炬燵はない
炬燵があったころ
子どものころ
少年のころ
親たちはとおくへ買い物に出て
ひとり
炬燵に入って
本を読んだり
みかんを食べたり
あれは
人生のこうふく
なかなか読み終わらないような
ながい本を
ときどき
うとうとしながら
読み続けたり
なにかを読み終えた!
と思いたくって
みじかい小説に移ってみたり
そんなふうにしているうち
外はもう暮れがた
まだ帰ってこない親たちは
いまは
どこらへんかしら?
など
思いながら
お茶でも
また淹れようかな
と立ち上がったりする
あれは
人生のこうふく
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