2020年2月5日水曜日

しみじみ感じ直すようだった



ほうれん草を茹でていたら
独特の匂いが漂ってきて
どこで嗅いだものだったか
けっこうよく知っていて
その匂いが立ちこめる場所に
ときどき行きはしたものの
このところはあまり
行っていないように思い
記憶の回廊のそこここをめぐって
あれでもないな
これでもないなと
吟味してみていたら
気づいた
温泉の匂いだ、と
ことこまかな光景などは
思い出さないまでも
湯気に曇る浴室内や
滑らないようにと気をつける
石の床や浴槽の縁や
曇ったガラスのむこうの
夜の木々の黒いまとまりなどが
わっとひとかたまりに蘇った
そろそろまた行こうかな
とも思ういっぽうで
もう十分行った気もするな
とも感じられて
ニッポンならではの温泉の風情に
もう執着してなどいない自分なのだと
しみじみ感じ直すようだった




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