ほうれん草を茹でていたら
独特の匂いが漂ってきて
どこで嗅いだものだったか
けっこうよく知っていて
その匂いが立ちこめる場所に
ときどき行きはしたものの
このところはあまり
行っていないように思い
記憶の回廊のそこここをめぐって
あれでもないな
これでもないなと
吟味してみていたら
気づいた
温泉の匂いだ、と
ことこまかな光景などは
思い出さないまでも
湯気に曇る浴室内や
滑らないようにと気をつける
石の床や浴槽の縁や
曇ったガラスのむこうの
夜の木々の黒いまとまりなどが
わっとひとかたまりに蘇った
そろそろまた行こうかな
とも思ういっぽうで
もう十分行った気もするな
とも感じられて
ニッポンならではの温泉の風情に
もう執着してなどいない自分なのだと
しみじみ感じ直すようだった
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