2020年4月24日金曜日

白河の水とともにぞ春もゆきける




遅い時間には遅い時間の華やぎ

八重桜
肉づきのよい女の子の頬のようだったあの花びらも
もうまばらに残るだけとなった

遅い時間には遅い時間の華やぎ

桜さくら
桜たちのならぶあたり
もう緑の葉ばかり
まだ軽く
さわさわと
しかし葉ばかり
緑の葉ばかり

遅い時間には遅い時間の華やぎ

葉も あゝ 花であったね
と気づき直す
春の終わり
晩春
というのだったな
そう馴染みがないわけでもないのに
日常の話ことばで
あまり
使わない
使わなくなってしまった
時代時代の
なかをどうにか生き延びてきた古風な詩歌のわたしのこころが
つぶやきながら
確かめようとする

遅い時間には遅い時間の華やぎ

晩春

初夏ではまだない
ほんのちょっとの日にちの違い
数日の違い

葉桜に
みんなで成っていこうとする
桜たちのならび

ゆく末を
せきとゞめばや
白河の
水とともにぞ
春も
ゆきける
源師房*



*『後拾遺和歌集』には土御門右大臣として登場。





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