2020年4月6日月曜日

「耀子です。あたし、耀子よ」


  
耀子の体はそう好きではなかったが、裸になったのを見せられると、勃起は健やかだった。
わたしの男根が
「耀子です。あたし、耀子よ」
 つぶやくので、まだ体を流しに赴いていない奥のバスルームが唱和し、
「耀子です。あたし、耀子よ」
 安手のテレビCMの台詞かなにかのように、ちょっと歌うように、言った。
 夜のホテルの高層階の部屋なので、近くの他のビルの窓々のあかりが美しい。
 テレビのわきに置かれてあるグラスが、
「耀子はあたしのほうかもしれないよ」
 言いながら、すこしカチンと音を立てた。
 その音を契機に、というわけでもないと思うが、耀子の裸体はたちまち2ミリほどの極細のコードのように豹変した。宙にスクリューのように舞い上がって立ち上がったと見る間に、わたしの男根の先端から入り込んできて、交合となった。
 男根とはつねに女体である。そして、すべての女がそうだとまでは言わないが、耀子のような女は、つねに真の男根である。
 今夜、耀子はわたしの脳髄まで届いていきそうだ、と感じる。
「耀子です。あたし、耀子よ」
 と、また、バスルームが言っている。





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