2020年7月24日金曜日

涼しい風がすこし入ってくる。


  
涼しい風がすこし入ってくる。
カーテンが
揺れてみたくて、風を引き込んだのだろう。

私は海だ。

たった一度も「私」と言ったことのない人とすれ違ったのは、
たぶん、あそこの海沿いの街のカフェ。

私は海だ。

知っているが
名は知らない南国の木々が揺れていた。
風もなかったのに。

地球はいつだって揺れているよ。
と、すてきな
朝の挨拶をくれた給仕係の老いた伊達男が、
ちょっと空を見つめる。

英語の本がnowhereを教えていた。

それはnowhereさ、と
20世紀の禅者たちの共有した冗談を返しながら、
あのカフェに、
あの丸テーブルに、
本は
置いてきた。

私は海だ。

涼しい風がすこし入ってくる。




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