涼しい風がすこし入ってくる。
カーテンが
揺れてみたくて、風を引き込んだのだろう。
私は海だ。
たった一度も「私」と言ったことのない人とすれ違ったのは、
たぶん、あそこの海沿いの街のカフェ。
私は海だ。
知っているが
名は知らない南国の木々が揺れていた。
風もなかったのに。
地球はいつだって揺れているよ。
と、すてきな
朝の挨拶をくれた給仕係の老いた伊達男が、
ちょっと空を見つめる。
英語の本がnowとhereを教えていた。
それはnowhereさ、と
20世紀の禅者たちの共有した冗談を返しながら、
あのカフェに、
あの丸テーブルに、
本は
置いてきた。
私は海だ。
涼しい風がすこし入ってくる。
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