ゆうがた
ことに冬など
陽も暮れてから
遠くまで
出かけねばならない仕事もあった
そんな頃もあった
わざわざ繁華な駅に出て
電車を乗り継いで
また乗り継いで
わざわざ繁華でない駅まで行き
職場に入る
進学塾だったが
最低レベルのクラスで
中3だというのに
やる気のない生徒ばかりだった
暗い雑居ビルの2階で
廊下は物置きのようになっていて
階段の端などは
暗すぎて見えなかった
なにを話してもろくに聞いていない
ノートも取らない
問題練習はすぐに投げ出す
すぐに眠りに落ちる
質問してもあいまいな返答しかしない
毎週
陰鬱な生徒たちで
どの夜も陰鬱な夜で
どの夜も無意味な夜だった
2時間かれらを隔離すれば2時間分の時給が出る
ただそれだけの2時間だった
そこへ向かう時
革靴の紐を結びながら
もうウォークマンの音楽をかけていて
今日は電車の中で
たとえばシューマン交響曲全集を
全曲聴き直せるかな?
とか
読んでいる途中の
文学研究の研究書を
どのくらい進められるかな?
などと思い
次に書かねばならない論文の論理の結び合わせを
また考え直したりした
ゆうがた
ことに冬など
陽も暮れてから
遠くまで
出かけねばならない仕事もなくて
近くへ
買い物に出ようか
などと
思う時に
どうしても
思い出す
あの
陰鬱な生徒たち
陰鬱な雑居ビル
陰鬱な大きな部屋
ただ時給を得るためだけに過ごした
陰鬱な夜の時間
毎週
来る夜
来る夜
どの夜も陰鬱な夜
どの夜も無意味な夜
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