2020年9月19日土曜日

どの夜も陰鬱な夜

 

ゆうがた

ことに冬など

陽も暮れてから

遠くまで

出かけねばならない仕事もあった

そんな頃もあった

 

わざわざ繁華な駅に出て

電車を乗り継いで

また乗り継いで

わざわざ繁華でない駅まで行き

職場に入る

 

進学塾だったが

最低レベルのクラスで

中3だというのに

やる気のない生徒ばかりだった

暗い雑居ビルの2階で

廊下は物置きのようになっていて

階段の端などは

暗すぎて見えなかった

 

なにを話してもろくに聞いていない

ノートも取らない

問題練習はすぐに投げ出す

すぐに眠りに落ちる

質問してもあいまいな返答しかしない

 

毎週

陰鬱な生徒たちで

どの夜も陰鬱な夜で

どの夜も無意味な夜だった

2時間かれらを隔離すれば2時間分の時給が出る

ただそれだけの2時間だった

 

そこへ向かう時

革靴の紐を結びながら

もうウォークマンの音楽をかけていて

今日は電車の中で

たとえばシューマン交響曲全集を

全曲聴き直せるかな?

とか

読んでいる途中の

文学研究の研究書を

どのくらい進められるかな?

などと思い

次に書かねばならない論文の論理の結び合わせを

また考え直したりした

 

ゆうがた

ことに冬など

陽も暮れてから

遠くまで

出かけねばならない仕事もなくて

近くへ

買い物に出ようか

などと

思う時に

どうしても

思い出す

あの

陰鬱な生徒たち

陰鬱な雑居ビル

陰鬱な大きな部屋

ただ時給を得るためだけに過ごした

陰鬱な夜の時間

 

毎週

来る夜

来る夜

どの夜も陰鬱な夜

どの夜も無意味な夜




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