2020年10月10日土曜日

きみにはこれはわからなかったのだよ、やはり

 

じぶんという意識のことなど

もうどうでもよくなっているのが

たぶんほんとうの老いというもので

たとえば、宮沢賢治くん

きみにはこれはわからなかったのだよ、やはり

もっともっと生きそこね続けて

なにもかもうまくいかないまゝであることなど

もうほんとうにどうでもよくなって

それでももっともっと生きそこね続けて

もうよだかの星にもクラムボンにもならず

ひかりなんかにもなってしまおうとせず

あいかわらず肉体を持って

肉体にも時間にも空間にも絡めとられ続けて

ついには肉体を師と思うようにさえなり

空間も時間もすばらしい導き手と敬うようになり

なにかの才能などあってもなくても同じことだと知り

みんな死んでしまったが死んでしまった「ようなだけ」だと知り

じぶんという意識も肉体も靄のような軽さだった!と知り

あゝ なんと透明なじぶんだったか!と

雲にも草木にも夕闇にも染み入られている

染み入られているだけの

この淡くふがいなく弱々しいありよう

このことが!





0 件のコメント:

コメントを投稿