2020年11月7日土曜日

たぶん、水都ゆららはプールに戻らない 4

4 水都ゆららの肌は外の暗さの明るさを喜ぶ


 

 水都ゆららは、夜というものの中へと歩み入りながら、その暗さが光輝くような暗さだと感じた。

 真っ暗なプールの中にあった水には、光が全く縫い込まれていなかったので、外の暗さの明るさに、肌は喜んだ。

 そればかりではない。

 離れたところには、星のような光の粒が地上に散乱している。

 あれは灯火というんだ、と闇が言った。

 そうだよ、灯火というんだ、と灯火から届いた光たちも告げた。

「でも、明かりと言ったり、電灯と言ったり、ランプと言ったり、ライトと言ったり、単に光と言ったり、いろいろ呼べるんだ」

と、光たちは、さらに言った。

 おしゃべりの賑やかさに、水都ゆららは光たちを楽しんだ。

 じぶんの上のほうにも、光の粒が、いくらか見えた。

 それらから来る光たちが、わたしたちは星、と言った。

「まあね、人間たちがそう呼んでいるだけのことだけどね」

とも、星の光たちは加えた。

 へんね、と水都ゆららは思った。

 光の粒でいるなんて、へんなことだわ。

 声には出さなかったのに、水都ゆららの思いを読み取って、星の光たちが、

「じゃあ、どうだったら、へんじゃなくなるんだい?」

と聞いた。

「さあ」

「さあ、…じゃ、わからないよ」

「光の粒も、そうじゃないのも、どれもへん」

「じゃあ、きみだってへんじゃないか?」

「そうね、へんね」

 水都ゆららがあっさり降参したように聞こえて、星の光たちは笑った。

 聞いていた地上の灯火たちも笑った。

 水都ゆららは笑わなかった。

 笑うということを、ゆららはまだ知らなかったから。




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