2020年12月10日木曜日

半熟ゆで卵用小皿史序説

 

半熟ゆで卵を食べる

毎日第1回目の食事の一部として食べる

好きなのだ、半熟ゆで卵が

固ゆで卵は避けたい

食べるべき半熟ゆで卵がなければ

固ゆで卵も食べぬではないが

避けたい

 

半熟ゆで卵は

ゆで卵立てに載せてテーブルに運ぶ

ゆで卵立ては小皿に載せる

和風と中国風の混ざったような柄の

鳥二羽の絵が描かれた小皿を使っていた

 

それが割れた

 

食事が終わってシンクに運んだ時に

シンクの上で取り落とした

普通ならシンクの鋼板の上で跳ねるのだが

見事にふたつに割れた

割れてしまった

なにか悪いことが起こるのか

そう思わされたくらい

軽々とふたつに割れてしまった

 

ずいぶん長く使ってきた と

片付けながら思いの中でふり返り

どのくらい使って来ただろう と

思いの中を遡っていくうち

 

思い出した!

この小皿の前に使っていた

同じくらいの大きさの

白い小皿を!

 

白地に藍の

粗い網目模様が描かれていた

分厚めの小皿で

ずいぶん長いあいだ使っていたが

ある時

ひょっとしたことで

ふたつに見事に割れてしまった

 

それは今から15年も20年も前

まだ代田に住んでいた頃に

家に居着いた外猫ミミの餌を載せるのに

ずっと使っていた小皿

ネコ缶の中身を載せたり

カリカリを載せたり

時には海苔を千切って載せたり

バターを載せたり

刺身を載せたり

猫のミミにお馴染みだった小皿

 

いままで使っていた

二代目の半熟ゆで卵用小皿の破損が

ふいに

そのひとつ前の半熟ゆで卵用小皿である

かつてのミミの小皿を出現させて

わたくしの

日々のつつましい小皿史を

蘇らせた

 

ミミの小皿が

わたくしの半熟ゆで卵用小皿になったのは

ミミが死に

その後も野良猫のために使い続けた

エレーヌが死んで

厖大な遺品の数々にまぎれて

わたくしの手元に流れ着いたためだった

 

しばらく忘却の河の底に

眠らせておいた

ミミとエレーヌの小皿を

いままで使っていた小皿の破損は

ふいに蘇らせ

わたくしに

半熟ゆで卵用小皿史を

いつか

格式高く叙述すべしとの決意を

抱かせたのであった

 

父と子と聖霊の御名によって

アーメン





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