2020年12月18日金曜日

たったひとり夢そのもの

 

なにを思うにも

もう

たったひとり

 

あいつはどう思うかな

とか

彼に伝えたいな

とか

このこと

彼女に

ちょっと聞いてみたいな

とか

そういう相手が

ひとり残らず消えて

たったひとり

 

こんなふうに

片言隻句で

思いを書き留めるのも

もう

だれかに向けてではない

もともと

だれにも読まれないものだったが

それでも以前は

あの人には

などと思って記しもした

もう

そんな人たちも

いない

たったのひとりも

 

あそこの紅葉が美しいな

なんて紅いのだろう

と思うのも

たったひとり

 

あの木はもう

盛りを過ぎてしまったな

こちらのは

今がちょうどいい頃合いだな

などと思うのも

たったひとり

 

この数日

急に冷え込むようになってきて

森のなか

林のなか

冬枯れの芝生の広場や

池や小川も

遠くに見えるビル群も

おゝ うつくしく寒い今夕!

 

夢のような

紅葉の林のなかも

たったひとり

まわる

だいぶ落葉してしまったが

ところどころ

鬼気迫るほどに赤いひと群れ

誘われているのか

導かれているのか

どうだろうね

あの木々の

赤すぎるほどのあの葉は?

呟こうにも

たったひとり

 

だれもいない

というだけでなく

なにかといえば

ちょっと話しかける

ちょっと書き送る

ちょっと電話する

あれほどたくさんいた

そんな人たちが

すっかりいなくなり

見えるもの

聞こえるもの

すべて

じぶんだけがその現実らしさを仮構し

その立体感を拵え続け

支え続けなければならないので

鬼気迫るほどに赤いあのひと群れも

赤すぎるほどのあの葉も

じつは

夢そのもの

 

夢のような

ではなく

たったひとり

夢そのもの





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