なにを思うにも
もう
たったひとり
あいつはどう思うかな
とか
彼に伝えたいな
とか
このこと
彼女に
ちょっと聞いてみたいな
とか
そういう相手が
ひとり残らず消えて
たったひとり
こんなふうに
片言隻句で
思いを書き留めるのも
もう
だれかに向けてではない
もともと
だれにも読まれないものだったが
それでも以前は
あの人には
などと思って記しもした
もう
そんな人たちも
いない
たったのひとりも
あそこの紅葉が美しいな
なんて紅いのだろう
と思うのも
たったひとり
あの木はもう
盛りを過ぎてしまったな
こちらのは
今がちょうどいい頃合いだな
などと思うのも
たったひとり
この数日
急に冷え込むようになってきて
森のなか
林のなか
冬枯れの芝生の広場や
池や小川も
遠くに見えるビル群も
おゝ うつくしく寒い今夕!
夢のような
紅葉の林のなかも
たったひとり
まわる
だいぶ落葉してしまったが
ところどころ
鬼気迫るほどに赤いひと群れ
誘われているのか
導かれているのか
どうだろうね
あの木々の
赤すぎるほどのあの葉は?
と
呟こうにも
たったひとり
だれもいない
というだけでなく
なにかといえば
ちょっと話しかける
ちょっと書き送る
ちょっと電話する
あれほどたくさんいた
そんな人たちが
すっかりいなくなり
見えるもの
聞こえるもの
すべて
じぶんだけがその現実らしさを仮構し
その立体感を拵え続け
支え続けなければならないので
鬼気迫るほどに赤いあのひと群れも
赤すぎるほどのあの葉も
じつは
夢そのもの
夢のような
ではなく
たったひとり
夢そのもの
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