濡れてもいい雑誌や
パンフレットのたぐいを見ながら
湯船に浸かる
そんな一冊に出ていた
古い写真には
明治に創業した美容室の記念写真があって
当初の10何人かの美容師たちが
一同に会していた
いろいろな顔が並んでいて
印象の強い顔や
うっすらと狐っぽい顔
ネズミっぽい顔
彫りの深い顔
あれこれ見つめながら
たとえば
いま結婚するなら
どんな顔の人がいいかな
などと考えたりする
みな明治の人で
とっくに死んでしまっていて
人となりも知らないし
向こうだって
私のようなものはまっぴら
御免でございます
などと言いそうなものだし
なんとも勝手で
いい加減で
まったくもって
暢気この上ない妄想なのだが
こんなふうにして
湯船に浸かっているのは
ひょっとしたら
いちばんの
しあわせかもしれない
それにしても
われながら
女の顔の好みも
変わったなあと思う
印象のうすい
目も開いているのかどうか
いるのかいないのか
わからないような
ほのかな幽霊みたいなのが
好みといえば
いまの
好み
白磁の壺の
おもてのような
肌でいさえ
してくれればなあと
これはちょっと
贅沢な
要求かも
しれないが
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