2020年12月10日木曜日

いいんだか悪いんだか


  

中学生になってからの

最初の国語の先生は

宮田先生という眼鏡の先生で

まだ二十代だったのだろう

じゅうぶんに若くてやさしくて

授業もちゃんとやっていたが

べつにおもしろいわけでもなく

格別つまらないわけでもなく

たゞとにかく怖くはないので

居心地はわるくなかった

 

いま思い出すと

どんな授業だったか

まるで記憶に残っていないので

そういうのも

いいんだか悪いんだか

ちょっと考えさせられてしまう

いま思い出すと

 

なにかのおりに

佐藤春夫のことが話に出たら

ある会で佐藤春夫には会ったことがあります

階段を下りてこられるところに

正面から出くわしたことがありました

あゝこれが佐藤春夫なんだと思って

けっこう感動しました

などと宮田先生は言っていたが

中学一年生にとっては『田園の憂鬱』も

『都会の憂鬱』も無きにひとしく

サンマ甘いかしょっぱいか…も

なんだかなァという詩にしか見えなくて

まったくピンと来なかった

だいたい春夫という名前からして

「三波春夫でございます」という時代で

佐藤にしたって佐藤栄作や

サトウハチローのほうが有名な時代だった

 

いいんだか悪いんだか

ほんとうに

まるっきり覚えていないのだ

宮田先生の国語の授業の雰囲気も

なにをどんなふうに習ったかも




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