2021年1月21日木曜日

マスクして没落のみち


 

 

マスクして没落のみちここに来し

 

富澤赤黄男は

昭和十五年以前に

もう

こう詠んでいる

 

あゝ あと五年もすれば

また

決定的な“敗戦”に

なだれ込む

のではないか

 

などと

思ってしまう

 

思ってしまうが

 

玉ねぎが白くて風邪をひいてゐる

 

夕焼のやうな魚をさげてくる

 

風よりもかなしき汝が寝息かな

 

ゆくすゑは遠くに夜の海鳴れり

 

過去(こしかた)のくらきおもひに灯をともす

 

貧乏にまけさうになる水をのむ

 

少女ゐて晩夏の花を買へといふ

 

など

読んで

思いをそらそうとする



富澤赤黄男的暗さ

だな

 

 

 

*富澤赤黄男句集『魚の骨』(河出書房、昭和十五年)






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