2021年1月23日土曜日

HOKUOのチョコケーキ


飲食店のならぶ通りを歩いていたら

これはチョコの香り?

それとも砂糖を焼いた香り?

どこかホッとするような

思い出の深いところに引き込まれるような

そんな香りがして心が立ち止まったが

つよいバニラの香りとわかった

この香りがいつもたゆたっていた頃が

人生のどこかにあったのだが

注意して歩きながらでは

そこまでよく思い出せなかった

 

けれどもそんな探索を中途半端ながら

始めてしまったからだろう

紙のカップに入ったチョコレート味の

黒いケーキが急に浮かび上がってきた

中にはチョコチップがぽつぽつ入っている

たびたびこれを買ったり貰ったりして

食べていた時期があったけれども

はて いつ何処でのことだったろうかと

さらに思い出そうとするうちに

あゝ これはたしか小田急線系列のパン屋

HOKUOの小ケーキだと思い出した

 

新宿から小田急線で下北沢駅まで帰ったり

なにかの用事で下北沢駅に出たりすると

エレーヌとよくHOKUOに寄って

小腹を満たすためのパンや小ケーキを買った

ごぼうの入ったパンや他の惣菜風のパンなど

エレーヌはお気に入りだったが

私はほしいものがあまりなくて仕方なしに

このカップのチョコレートケーキを買った

いつも仕方なしに買うのだけれど

HOKUOに行くとそれが習い性になり

結局いつもこればかり買っていた

 

蘇ってきたのはまるでついさっき

買ってきたばかりのようなこのケーキの姿で

小田急線を全く使わなくなってから

もう10数年以上は買っていない

どこの店も閉まっている正月の数日

下北沢駅のわきの小田急OXの二階にあった

TSUTAYAにビデオを借りに行った際に

一軒だけ空いていたHOKUOで買ったものか

それともフランス図書や紀伊國屋書店で

ずいぶん長いこと本を見て空腹で帰ろうという時

新宿駅のHOKUOでひとつふたつ買って

ホームでちぎっては口に運んだものか

 

じぶんの内面はいつまでも変わらぬままなのに

あゝ まわりのなにもかもが消えて行ってしまう

あゝ 流れて行ってしまう本当になにもかもが

まるで目覚めるたびに昨日のままのつもりなのに

昨夜の暗さがすべて消え失せてしまっているように





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