飲食店のならぶ通りを歩いていたら
これはチョコの香り?
それとも砂糖を焼いた香り?
どこかホッとするような
思い出の深いところに引き込まれるような
そんな香りがして心が立ち止まったが
つよいバニラの香りとわかった
この香りがいつもたゆたっていた頃が
人生のどこかにあったのだが
注意して歩きながらでは
そこまでよく思い出せなかった
けれどもそんな探索を中途半端ながら
始めてしまったからだろう
紙のカップに入ったチョコレート味の
黒いケーキが急に浮かび上がってきた
中にはチョコチップがぽつぽつ入っている
たびたびこれを買ったり貰ったりして
食べていた時期があったけれども
はて いつ何処でのことだったろうかと
さらに思い出そうとするうちに
あゝ これはたしか小田急線系列のパン屋
HOKUOの小ケーキだと思い出した
新宿から小田急線で下北沢駅まで帰ったり
なにかの用事で下北沢駅に出たりすると
エレーヌとよくHOKUOに寄って
小腹を満たすためのパンや小ケーキを買った
ごぼうの入ったパンや他の惣菜風のパンなど
エレーヌはお気に入りだったが
私はほしいものがあまりなくて仕方なしに
このカップのチョコレートケーキを買った
いつも仕方なしに買うのだけれど
HOKUOに行くとそれが習い性になり
結局いつもこればかり買っていた
蘇ってきたのはまるでついさっき
買ってきたばかりのようなこのケーキの姿で
小田急線を全く使わなくなってから
もう10数年以上は買っていない
どこの店も閉まっている正月の数日
下北沢駅のわきの小田急OXの二階にあった
TSUTAYAにビデオを借りに行った際に
一軒だけ空いていたHOKUOで買ったものか
それともフランス図書や紀伊國屋書店で
ずいぶん長いこと本を見て空腹で帰ろうという時
新宿駅のHOKUOでひとつふたつ買って
ホームでちぎっては口に運んだものか
じぶんの内面はいつまでも変わらぬままなのに
あゝ まわりのなにもかもが消えて行ってしまう
あゝ 流れて行ってしまう本当になにもかもが
まるで目覚めるたびに昨日のままのつもりなのに
昨夜の暗さがすべて消え失せてしまっているように
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