箏もよくし
歌にも達者で
新勅撰集に採られたりした母の
中院右大臣源雅定女房
大神基政女夕霧は
あれやこれやと気のつく人で
死期が迫った時にも
いろいろと
まわりの人に
言い置いていたものでした
五月のはじめになくなってからは
生前の母について
思い出されることも
思われることも
まことにきりがないまま
日々を暮らしておりましたが
四十九日になりまして
さすがに
そろそろ気持ちの整理も
しなければならず
物の始末もしなければと思い
生前に母の着ていた衣や
袈裟などを
籠僧にあげたり
阿証上人に差し上げたりしたのですが
着物の折り目や皺が
生前に着ていた時とかわらず
それを見ていると
母のおもかげが
いっそうありありと蘇り
胸に迫ってくるようなのでした
建礼門院右京大夫
母なる人の、さまかへてうせにしが、ことに心ざしふかくて、
きなれける衣の袖のをりめまでたゞその人をみる心ちして
『建礼門院右京大夫集』
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