また声をかけてくる気がする

  

 

ウイルスうんぬんより

梅雨がひと月もはやくなったことのほうが

地球に起こっていることの不気味さを

はっきり表わしていて

はるかに恐ろしいんだけど…

と自然農法をやっている人がツイートしていた

 

この数日は曇天が続き

雨もぱらぱら

小降りになったり

激しくなったり

ちょっとした雲の切れ目から

青空がのぞき

陽が急に射したかと思うと

また大雨になったり

 

30年間ともに精神生活を過ごしたエレーヌは

日本の梅雨が大好きで

じとじと雨つづきになるたびに

ほんとに気持ちがいい

梅雨はすばらしいと

よく私に言った

フランス人のエレーヌを通じて

私は日本の梅雨を再発見した

 

エレーヌが日本に来てからの

数年の間の日本発見のみずみずしい日々を

『マルテの手記』のあかるいバージョンのようにして

中年に入りつつあった頃の彼女の視点から小説に書こうと

もう十年ほど

いろいろ書いたり直したり

書き直したりをくり返しているが

忙しすぎた十年だったので

なかなか

はかどらなかった

 

ただただ

日本のふつうの風土のすばらしさや

ありきたりの生活のすばらしさに

ひとつひとつ目を開かれ続けて

驚異の国に住むことになったエレーヌ

という感じの昭和版『枕草子』にしようとしたくて

本にすれば200から300ページの

ごくごく短いものにまとめたいのだけれど

そろそろ

本格的にとりかからなくてはいけない

 

曇天が続き

雨もぱらぱら

小降りになったり

激しくなったり

ちょっとした雲の切れ目から

青空がのぞき

陽が急に射したかと思うと

また大雨になったり

そんなことが続くようになってくると

雨のたびに目を輝かせて

あそこにアジサイを見に行きましょう

雨の木立の下を歩きに行きましょう

と私を誘い続けたエレーヌが

となりの部屋から

また

声をかけてくる気がする