着物と女流文学について
むかし
連載記事を寄せていた着物雑誌があるが
記事を書くのを終えてからも
ときどきは見る
現在店頭に並んでいる号は
表紙がなかなかの奇観で
むかしと違ってどうしてしまったのか
と
見る目のある人なら気づく
写しようによっては
もともと熊ちゃんみたいに写ってしまう女優を
みごとに熊ちゃんみたいに写してしまった写真を選んでしまう
どうしようもないセンスのなさもさることながら
驚くなかれ
表紙に使用している字体がすごい
明朝体で統一している中に
中央の三行だけゴシック体にしてしまっていて
これはふつう
まず雑誌づくりではあり得ない非常識な失敗である
もちろん
デザインにおける冒険をして
あえて字体を混ぜるということはあってもいいだろうが
そんな挑戦をすべき場所でも号でもないし
仮にその三行だけ強調したいと思ったとしても
どう見ても強調すべき内容の三行ではなく
強調するなら他の行をすべきだろうと
これも
誰が見てもわかる
つまり
プロの雑誌屋が犯してはならぬ
初歩的なミスなのだ
編集部内部の話がいくらでも耳に入るので
このミスについても
とんでもない話を聞き及んでいる
表紙担当のベテランが
校正終了後になってこの字体のミスに気づき
編集長に変更の必要を伝えたそうだが
編集長はいったん自分がOKを出した作業なので
矜持からか
怠惰からか
なんと文字変更を許さなかったというのである
表紙担当者は
この編集長が着物のことをまるで知らず
なんの興味もなく
学ぼうともせず
着物の知識や情報に関するどんな点についても
一切聞く耳を持たず
ただ投げやりに雑誌づくりをしているのを知っているので
表紙のことについても
これ以上は修正を要求せずに
放っておくことにしたそうである
一年ちょっと編集長の席にあったこの人物が
最近この会社の軸となる婦人雑誌の編集長になったが
この経緯がまた凄まじい
これは上司にあたる欲得がらみだけで生きている人物が
自分の保身のために有能な社員たちを異動させて
あえて無脳な人物たちを編集長職に据えて権勢を維持する暴挙に出
物語的にはこれからさらにどう狂っていくかが楽しみだが
そこはそれ
ゾラやバルザックなみの小説仕立てにしようと
微に入り細に入り一つ残さずエピソードを収集中なので
しばらくしてからお目に掛けたい
わずかの期間だけの着物嫌いの編集長が去ると決まった時
着物好きで着物のことなら博士なみの長年のベテラン編集者たちは
「ついに一枚も買わなかったですねぇ……」
と嘆息したということである
着物雑誌の編集長がついに一枚も着物も帯も買わず
それどころか自分で取材もせず記事も書かないで
すべて他のスタッフにやらせて
のうのうと編集長然とし続けただけというのは
物語的には非常に興味深いキャラクターの発現であって
今後も執拗に注視を続けていきたいものの
この人物のまわりには
類は友を呼ぶという通り
同じようなコスズルイ人物たちだけが集まっているので
これらについても観察の目を緩めてはならないだろうと思っている
それにしても
着物雑誌のスタッフたちが
「ついに一枚も買わなかったですねぇ……」
と洩らすような人間が
一時であっても着物雑誌の編集長になってしまったというのは
この日本において隅々にまで
世も末な事態がはびこってしまっているということの
証左であろうか
まるで
政治家にいちばん相応しくない人間たちで
列島政治が支配され切っているのと
同じではないか
ちなみに
この愚かな編集者を利用しようとして
ヒルのように毒蛇のようにムカデのように集まってくるうちの
一人の老いた女スタイリストが
どうしても着物を着ないといけないセレモニーの際に
このエセ編集長に着物を貸したそうなのだが
それがよい着物ではあるものの老婆が着るべきような地味なもので
そこにまた地味な帯を合わせてくるもので
TPOをまったく弁えない上
そもそも着付けがまるでダメで
他の艶やかで華やかな着物たちの中では悪目立ちしてしまって
滑稽この上なかったと
これは
着物の世界のわけ知りたちの話
このエセ編集長にそんな着物をあえて貸し与えたスタイリストは
着物を愛してよく学び続けていた先々代の編集長が
なんとしてでも雑誌に出すまいと
必死に阻止し続けていた
まったく着物に無知なスタイリストなのだが
その後を継いだエセ編集長はこのスタイリストに道を開いてしまっ
これから着物雑誌でも婦人雑誌でも
着物といえばこの老女がしゃしゃり出てくることになるそうな
ま
今も店頭に並んでいる雑誌の
表紙の明朝体とゴシック体のまぜこぜを見れば
一目瞭然
後は推して知るべし
という話
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