たしかに暑いし
雨が降るとその後は湿っぽくなるが
それでもクーラーをつけないのは
こんな程度の暑さや湿気で負けていては
これから来るもっとひどい暑さに対抗できなくなる
世界的な停電が引き起こされて大変な事態になるはずだから
と思うためでもあれば
過去にはるかに暑い時も忍んだからでもある
歳を重ねていくと暑ささえも層を重ね
いまの一瞬の暑さが様々な過去の暑さにじかに繋がっていく
扇子や団扇で最近はバタバタと昭和の頃のように扇ぐようになった
これが意外に効果のある涼み方で
なるほど昔の人がやけにバタバタやったのが頷ける
これでだいたいの暑さは凌げるのも事実なのだ
あれはたしかトゥールーズだったと思うが
大西洋側のビアリッツやバイヨンヌから地中海に抜ける途中で寄り
日本へ新聞記事のための原稿を書いて送る必要があった時
やけに暑い夜にホテルの換気の悪い暑い熱い部屋で書いて
清書して封筒に入れて翌朝はやく郵便局に行こうと準備した
今のようにSNSなどないしそもそもインターネットがなかった
その頃のフランスの地方都市のホテルにはクーラーなどないので
夜も窓を開けて換気するほかはないのだが
風がまったくない夜ともなれば暑さはただ事ではない
その夜もちょうどそんな夜で
頭が爆発するのではないかと思うほど暑くて
書き終わってから汗だらけになって横たわったものだった
翌朝しずかな明け方の空気や景色の中に顔を出して憩っていると
数階下の窓が急に開いてフランス人の男が顔を出した
こちらを見上げたりすることはなかった
同じ建物の下ではなく折れ曲がった壁の側の部屋の窓で
男の部屋の中がすこし見える
男は窓のある壁に寄り添っておもむろに逸物を出すとしごき始めた
朝っぱらから自慰をしているわけかと感心してずっと見下ろしてい
もうそろそろ射精するかと思われたところでふいに
男はこちらを見上げてハッとして窓を閉めてしまった
彼の精液がほとばしるところを見られなかったのは残念だったが
あのまま頂点に達したとしたら何処に彼はぶちまけたのだろう
それが訝しくもあったし他人事ながら心配でもあった
ともあれトゥールーズの早朝のなんとも静かな自慰の光景であった
その後カルカッソンヌに向かって酷暑のなか中世の城塞都市をめぐ
ナルボンヌやベズイエを経てモンペリエに向かったが
モンペリエの八月の暑さといったら日本どころではない
街中が水蒸気で白くなり日中に外に出られないような暑さが支配し
日本の暑さを知っているから地中海のそれなどなんでもないなどと
無知を無知とも思わずに生きてきたのをガツンと打ち破られた
モンペリエの知人の家はもちろん列車もトラムもバスもどんな店も
空調設備などまったく入っておらずじかに温度を受止める他ない
汗で濡れ切ったTシャツを着続けているのなどなんでもなくなり
寝ても覚めても温度の下がる時がないので冷えもしないが
とにかくTシャツもズボンも汗で濡れっぱなしである
ニームもアルルも暑かったがモンペリエほどではなかったと感じ
日本の夏を何年も後に体験した時にはこれは初夏か?と思った
このところの2021年の夏の暑さもやっぱり初夏の暑さなのだ
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