2021年7月31日土曜日

歳を重ねていくと暑ささえも層を重ね

 

たしかに暑いし

雨が降るとその後は湿っぽくなるが

それでもクーラーをつけないのは

こんな程度の暑さや湿気で負けていては

これから来るもっとひどい暑さに対抗できなくなる

世界的な停電が引き起こされて大変な事態になるはずだから

と思うためでもあれば

過去にはるかに暑い時も忍んだからでもある

歳を重ねていくと暑ささえも層を重ね

いまの一瞬の暑さが様々な過去の暑さにじかに繋がっていく

扇子や団扇で最近はバタバタと昭和の頃のように扇ぐようになった

これが意外に効果のある涼み方で

なるほど昔の人がやけにバタバタやったのが頷ける

これでだいたいの暑さは凌げるのも事実なのだ

 

あれはたしかトゥールーズだったと思うが

大西洋側のビアリッツやバイヨンヌから地中海に抜ける途中で寄り

日本へ新聞記事のための原稿を書いて送る必要があった時

やけに暑い夜にホテルの換気の悪い暑い熱い部屋で書いて

清書して封筒に入れて翌朝はやく郵便局に行こうと準備した

今のようにSNSなどないしそもそもインターネットがなかった

その頃のフランスの地方都市のホテルにはクーラーなどないので

夜も窓を開けて換気するほかはないのだが

風がまったくない夜ともなれば暑さはただ事ではない

その夜もちょうどそんな夜で

頭が爆発するのではないかと思うほど暑くて

書き終わってから汗だらけになって横たわったものだった

 

翌朝しずかな明け方の空気や景色の中に顔を出して憩っていると

数階下の窓が急に開いてフランス人の男が顔を出した

こちらを見上げたりすることはなかった

同じ建物の下ではなく折れ曲がった壁の側の部屋の窓で

男の部屋の中がすこし見える

男は窓のある壁に寄り添っておもむろに逸物を出すとしごき始めた

朝っぱらから自慰をしているわけかと感心してずっと見下ろしていたが

もうそろそろ射精するかと思われたところでふいに

男はこちらを見上げてハッとして窓を閉めてしまった

彼の精液がほとばしるところを見られなかったのは残念だったが

あのまま頂点に達したとしたら何処に彼はぶちまけたのだろう

それが訝しくもあったし他人事ながら心配でもあった

ともあれトゥールーズの早朝のなんとも静かな自慰の光景であった

 

その後カルカッソンヌに向かって酷暑のなか中世の城塞都市をめぐ

ナルボンヌやベズイエを経てモンペリエに向かったが

モンペリエの八月の暑さといったら日本どころではない

街中が水蒸気で白くなり日中に外に出られないような暑さが支配し

日本の暑さを知っているから地中海のそれなどなんでもないなどと

無知を無知とも思わずに生きてきたのをガツンと打ち破られた

モンペリエの知人の家はもちろん列車もトラムもバスもどんな店も

空調設備などまったく入っておらずじかに温度を受止める他ない

汗で濡れ切ったTシャツを着続けているのなどなんでもなくなり

寝ても覚めても温度の下がる時がないので冷えもしないが

とにかくTシャツもズボンも汗で濡れっぱなしである

ニームもアルルも暑かったがモンペリエほどではなかったと感じ

日本の夏を何年も後に体験した時にはこれは初夏か?と思った

このところの2021年の夏の暑さもやっぱり初夏の暑さなのだ





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