2021年8月30日月曜日

スズムシスズムシスズムシ

 

 

叔父のひとりが死んだので

葬式をした

 

本堂での葬儀の後

寺のStaff Onlyな部屋の奥のほうから

鈴虫の音が盛大に聞こえてくる

 

昨年のことだそうだが

浄土宗があちこちの寺に鈴虫を配ってきたので

もらったものを飼っていたら

今年はどんどん増えて特大6ケース分が

盛大に合唱をしているという

 

ちょっとお持ちになりますか?

というので

それはうれしいなあ

と曖昧に答えておいたら

精進落としの後

本当に小さめの昆虫観察小ケースを手わたされ

中を見ると10匹ぐらいが入っている

 

家に帰ってケースを置いてみると

しばらくはウンともスンとも鳴かなかったが

そのうち音色が聞こえて来はじめた

都心の高層の自宅で本物の鈴虫が聞けるとは

なんとも贅沢なことではないか

 

入れてもらったケースは

10匹を飼うには小さく見えるので

もっと大きなケースを買い

鈴虫を飼うのに適したものも揃えようと思い

ネットであれこれ探しはじめると

鈴虫飼育用のさまざまな商品が

いろいろと準備されているのを知った

虫好きだった子どもの頃に

もちろん鈴虫もコオロギも飼ってみて

いろいろと成功も失敗もしたので

今回は失敗をしないようにと

鈴虫の飼い方の勘どころを調べてみると

そういう知識もネットには溢れていて

近ごろの子どもはいいなァと思う

 

ともあれ

葬儀の終わった日で

はやく寝たい夜だというのに

鈴虫飼育のことにかまけて

いつのまにか深夜を過ぎてしまった

予期もしなかったことながら

これからは鈴虫の世話で忙しくなるのだろう

死んだ叔父のことなど

もうどうでもいい感じだが

死んだ人がよく蛍とか蝶になって訪れるという

あの話に沿いながら考えると

10匹ばかりの鈴虫となって

わたしの手元にやってきたのかなどとも

思えないこともない

 

それにしても

ちょうどよい霧吹きさえも

買い直さねばならなくなったり

湿り気を与えるために吹きかける水は

塩素の入っている水道水ではダメだと学んだり

見ようによってはゴキブリと大して変わらない連中なのに

たかが虫を飼うにもやけにコマゴマと忙しくなる

もっと大きな動物を飼うよりは楽だろうが

それでもこれからは

アタマのどこかでいつも鈴虫を考えて

なにを思うにも考えるにも

スズムシスズムシスズムシでやっていくのかと思うと

こういう世界変貌のかたちも

あるというわけか

と気づき直したりする





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