このまえ死んだ叔父が
夢のなかに出てきた
フロックコートなんか着ちゃって
颯爽と歩いている
銀座のビルの一階の書店に
いっしょに入った
広いフロアをあちこち歩くうち
分厚い漫画週刊誌が
平積みされているところに来た
一冊を取ってめくりながら
最近の漫画の傾向はこれこれで
こんなのがこんなふうで
などと叔父に話すと
叔父のほうがよほど蘊蓄があって
もっと的確な解説をした
書店を出て歩くうち
古びた不動産屋のようなところに来て
ちょっと入るか?と言うので
興味はなかったがいっしょに入る
戸を開けると中には6,7人が
こちらを向いて座っていて
叔父に聞くと占い屋なのだという
腹巻きをしたおっちゃんや
頭にニット帽を被った爺さんや
風采の上がらない人たちが
こっちを向いて机のむこうにいる
占ってもらう必要はないし
予知能力なら僕のほうがあるだろうし
などと思いながらも
どんなふうに彼らが占うのか
ちょっと見てみてもいいかな?と
少し関心も湧いて来かかる
うっかり咳が出たがカゼを引いたのではない
店の中で数人が煙草を吸っているからで
まったく今どき煙草の煙で
もわもわしているところなんてと
時代を間違えたような気になる
最近は夢を見ていても
夢のなかでこれは夢だなと気づいている
なのでフロックコートなんか着て
叔父が颯爽と銀座を歩いていても
これはもちろん夢なんだよなと
夢の中の僕は気がついている
とはいえこんなふうに夢に
出てくるようになったのだから
死んでから叔父もすっかり回復して
元気になって若返ったりもしたんだろう
そう思い一件落着ということかなと思った
少なくとも二十年は引き籠もりになって
まったく掃除もゴミ捨てもせずに
津波の引いた後のような土気色の家のなかで
八十一になる今年の初夏まで生きていた叔父は
夏から初秋にかけて入退院をくり返し
八月二十七日に膵臓ガンで死んだ
四十九日も済み七十七日にもなって
今じゃフロックコートなんか着て
銀座を闊歩しているんだから
ひとっていうのはやっぱり
いったん死んでから回復して
また元気になるものなんだなあと
夢のなかで驚いて見つめていたのだった
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