2022年3月2日水曜日

花のにしきはちゃんと着て

 


 

正岡子規の全歌集

『竹之里歌』*

最初のページには

明治十五年の作がたった一首だけ

 

隅田川堤の櫻さくころよ花のにしきをきて帰るらん

 

ただ

これだけ

 

歌人

正岡子規の歩みは

この一首からはじまる

 

まだ

江戸時代ふう

だと

言えよう

 

子規の個性も

まだ

開花していない

とも

言えよう

 

しかし

子規の短歌と俳句に特有の

あのすがすがしさは

すでに

現われている

 

花のにしきをきて帰るらん

帰るらん

子規なのだ

 

帰っていってしまうひと

花の

あるところに

居続けないひと

 

しかし

花のにしきは

ちゃんと

着て

 

 




 

*正岡子規全歌集『竹之里歌』(土屋文明・五味保義編、岩波書店、1956)

 

 





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