2022年3月2日水曜日

灯の暗き昼のホテルに憩ひゐる

 

 

 

灯の暗き昼のホテルに憩ひゐる一時あづけの荷物のごとく

 

佐藤佐太郎の

昭和五十一年の

短歌

 

一時あづけの荷物のごとく

でない

わたしたちは

いるか?

 

そんな時が

ある

とでもいうのか?

 

わたしも

また

灯の暗き昼のホテルを

思い出す

 

ひとの少ないロビーで

または

ふいに到着客で賑やかになるロビーで

連れを待って

これから行く先のことを

あいまいに想像したり

気にかかっている用事いくつかを

これもまた

あいまいに思ってみたり

 

灯の暗き昼のホテルに

憩って

憩ったりして

何度も

気づいた

 

このホテルの

此処に

わたしを運んできたものを

わたしはやはり

ついに知りえない

 

ソファに身を沈めて

灯の暗さに

異様な感慨を覚えているわたしを

ついに

わたしは知らない





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