こころは残る

 

咲きのかぎり咲きたるさくらおのづからとどまりかねてゆらげるごとし　

三ヶ島葭子

 

 

 

桜が咲きはじめると

住まいの東も

西も

南も北も

桜ばかりになる

 

ちょっと離れたところも

もっと離れたところも

桜ばかりになる

 

桜を見に歩きに出て

道から道に出て

さらにべつの道に出て

左右を見ると

どちらに行っても

桜の木の

大きな枝ぶりが広がっている

左か

右か

どちらに行くか

選ばざるを得ないので

どちらかに行くが

そうすると

どちらかには行かないので

行かなかったほうに

こころは

残る

 

どれもこれも

桜なのに

どの木もそれぞれ

異なった咲きかたで

ちかくへ行って見なかったら

見なかったで

こころは

残る

 

ちかくに行って

見たとしても

見ても

見ても

見尽くせない気持ちがして

こころは

残る