満開になった桜を
ぼーっと眺めていると
ばかになっていくような気がする
ひらがな書きのばかになっていくような気がする
こんなときには
ことばをかきあつめ
ひっしにさくらをあらわそうとして
もちこたえないといけない
そうしないと
もっとばかになっていく
ひらがな書きのばかに
もう止めようもなく
なってなってなっていってしまう
むかしのひとや
近代でも短歌なんかつくる人が
和歌短歌なんかでさくらをことばづかみしようとしたのは
たぶんそのため
ひっしにさくらをあらわそうとして
ひらがな書きのばかになっていくのを
なんとか止めようとしたため
なので
思い出す
あれこれの
ひらがな書きのばかになりきってしまわないための
かずかずの
ひっしの努力を
あれや
これやと
与謝野晶子
何となく君に待たるるここちして出でし花野の夕月夜かな
若山牧水
うすべにに葉はいちはやく萌えいでて咲かむとすなり山ざくら花
永井陽子
あはれしづかな東洋の春ガリレオの望遠鏡にはなびらながれ
正岡子規
隅田川堤の桜さくころよ花のにしきをきて帰るらん
高野公彦
夜ざくらを見つつ思ほゆ人の世に暗くただ一つある〈非常口〉
三ヶ島葭子
咲きのかぎり咲きたるさくらおのづからとどまりかねてゆらげるご
紀友則
ひさかたの光のどけき春の日にしづ心(ごころ)なく花のちるらむ
与謝野晶子
清水へ祗園をよぎる花月夜こよひ逢ふ人みな美くしき
釈迢空
山ぐちの桜昏れつゝほの白き道の空には、鳴く鳥も棲(ヰ)ず
藤井常世
日はさせど飢ゑゐるごとき心にてすこしつめたく桜さくなり
素性
見わたせば柳桜をこきまぜて都ぞ春の錦なりけり
築地正子
背信の古傷なめて冬過ぎて春は桜とまた言ひてをり
伊勢大輔
いにしへの奈良の都の八重桜今日九重ににほひぬるかな
与謝野晶子
春の夜に小雨そぼ降る大原や花に狐の出でてなく寺
永福門院
花の上にしばしうつろふ夕づく日入るともなしに影きえにけり
穗村弘
「キバ」「キバ」
紀貫之
やどりして春の山べに寝たる夜は夢のうちにも花ぞちりける
高野公彦
弘法寺の桜ちるなか吊鐘は音をたくはへしんかんとあり
与謝野晶子
花散りて葉いまだ萌えぬ小桜の赤きうてなにふる雨やまず
藤井常世
咲き急ぎ散りいそぐ花を見てあればあやまちすらもひたすらなりし
馬場あき子
花散りて実をもつ前の木は暗し目つぶれば天にとどく闇ある
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