切腹については
1908年に『伯爵(Il Conde)』で
ジョウゼフ・コンラッドが
すでに
こう書いている
ハラキリという行為は
不面目な目に遭い
繊細な感情が耐えがたい侮辱を受けた後に行う
日本式自殺の様式である
短く
これほど深く
端的に
外国人による
切腹についての理解の述べられた文に
ほかでは出会ったことがない
繊細な感情の持ち主でなければ
切腹はしない
とも
これには教えられる
切腹をした
あの人も
ほかのあの人も
繊細な感情の持ち主で
ひょっとして
耐えがたい侮辱を
受けたゆえだったのか
と
つらつら
思ってみたりする
『魔法使いの弟子(The Charwoman's Shadow )』で
ロード・ダンセイニこと
第18代ダンセイニ男爵
エドワード・ジョン・モアトン・ドラックス・プランケットは
こう書いた
粗野で下卑たものが
高貴で優雅なものに
俗世の生きかたを教える世の中が
やがて
訪れるのだろうか・・・
これは1926年の言葉である
繊細な感情の持ち主たちは
この後の時代を
どう生きのびたのだろう
思いのほか
感情の鈍麻に成功して
精神の老醜の港に
無事に
寄港できたかもしれない
永井荷風は
『歓楽』で
こう書いている
私ァもう、
全く
世の中には飽きちまひました
早く年を取つて
芝居一ツ見たくない様に
なつて仕舞ひたい
これは
1909年
精神の老醜者
老残者のことばであって
実際の老人のことばではないが
ロード・ダンセイニよりも
はるかに荒涼としたところに
荷風は達していた
大先輩であるはずの
コンランドにも
劣っていないかもしれない
これだから
日本の文芸は
おそろしい
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